我が青春のアコーディオン



フィレンツェの昼下がり、カフェの二階で一休みしているとアコーディオンの音色が聞こえてきた。

窓辺の席から下を眺めると、11〜2歳の子供がアコーディオンをひいている。曲は有名な‘パルチザンの歌’(さらば恋人よ!)である。木漏れ日の中で少年の姿は一幅の絵となり、哀愁をおびた音色をアコーディオンは切々と奏でる。

その時一人の老人が、傍らにやってきて少年の足元においてある空きカンの中に幾ばくかのお金を入れた。老人は暫らく立ち止まって、その音色に聞き入っていた。その昔この老人も`Oh! bella ciao!'と恋人に別れを告げ、パルチザンに見を投じたのであろうか?
すっかり年老いてしまった面差しの中に遥か遠くを見据える瞳があった。

老人が立ち去った後にも次々とお年寄り達が立ち止まる、少年が奏でる曲はこの一曲だけである、演奏も拙い。しかしあるお婆さんなんぞは、涙を浮かべて聞き入っている。少年のいたいけな姿を思い遣ってか、去りて再び帰る事が出来なかった兄弟か恋人を偲んでか? その内に人通りも絶えた・・・

少年は前のバーに入り暫らくすると出てきた。手にはお札を握っている、貰った小銭を両替してきたのだろう。そして路地に入ると、少年はやおらお尻のポケットから札束を取りだし、両替した札と合わせて勘定し始めたではないか!いやはや、私よりよっぽどお金持ちである。私はうらやましさも手伝って、しばしボーゼンとした。

勿論この少年は正当に自分で稼いだのであって、何のやましいところは無い。むしろアッパレと言うべきであるが、所を得た見事な演出は百鬼夜行列伝に加わる資格が充分にあると拝察する。